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December 24, 2011

久しぶりの南方妖怪話

 ここんとこ忙しくて、南方妖怪に関する調べ物はほぼストップしていたわけですけど、そんな中で日本で唯一学術的にフィリピンのアスワンを調査している文化人類学者の東賢太郎さんが初めて上梓した『リアリティと他者性の人類学―現代フィリピン地方都市における呪術のフィールドから』が発行されているのを春に教えてもらい、細々と読んでおりましたので、そのお話など。

 はじめて読まれる方向けに軽く説明しておくと、中国の江南からインドシナ半島、インドネシアあたりに日本のろくろ首の元になったと思われる首が抜けて空を飛ぶ吸血妖怪が広く分布しておりまして、中国文献なら2~3世紀頃、英語文献なら19世紀に記録されていたりするわけですが、今も現役で怖がられる東南アジア最強のお化けだったりするのです。
 そのフィリピン版がマナンンガルもしくはアスワンと呼ばれているのですね。

 これまでマレーシアのペナンガランやタイのガスーなんかを調べていたわけですが、フィリピンのマナナンガルは独特な姿をしております。上半身が抜けて翼が生えて空を呼ぶのですよ。これは明らかに首だけが空を飛ぶインドシナのお化けの変形版ですよね。
 しかもフィリピンのホラー映画に出てくるアスワンは空飛ぶ女吸血鬼のイメージだったりするのですが、アメリカの植民地を経験しているフィリピンの映画では、欧米の吸血鬼的な映像になったアスワン映画などもありまして、てっきり最近になってマレーシアから渡ってきたお化けだと想定していたわけです。
 そう考えた理由は幾つもあるわけですが、例えばアスワンの出身地はフィリピン中南部のカピス州と言われているんですが、ペナンガランの伝承が19世紀初頭に記録されているマレーシアに距離的には非常に近く、人的・文化的なな交流が容易に想定できる上に、元々伝承はあったにしても、今の姿は欧米の吸血鬼映画の影響バリバリなわけで、まず20世紀になって出来上がった妖怪だと思っていたわけです。

 ところがところが、先の本には17世紀のスペインの文献で、すでにアスワンと覚しきお化けが確認されており、しかもそのあり方は、上に描いた女吸血鬼としてのアスワン像とはまるで異なるものでした。

 結論からいえば(予想はしていたけど)、アスワンは女吸血鬼の側面もあるけど、様々な怪異を起こすものの総称だってこと。怪異の中に、上半身が抜けるマナナンガルになったり、空を飛んだりする要素もあるのだけど、実は主に民間信仰の呪術師的なものを指す言葉だったりしたのです。

 もっと解りやすく言えば、伝染する憑き物筋のような存在だったのですよ。あそこのメイドさん、アスワンだからあの家では変な事ばかりおこるんだとか、村はずれに住んでる爺さんは**のせいでアスワンになったとかね。しかも明らかにアスワンは呪術師(もしくは知らない間に呪術の影響を受けて悪い事を起こす存在に変わってしまった人)として認識されているのです。

 敬虔なカソリック国家(国民の9割以上が信者なのですよ)ではあるけれども、土着信仰や呪医が今も多数いて迷信が今も影響力が強いって言えばそうなのだけど、インドシナと同じくやっぱり南方呪術と結びつく存在として認識されていたわけです。

 インドシナではヒンドゥー系の民話をベースにした呪術師がガスーやペナンガランになったり作ったりしていたのだけど、ちょっと様相は変わるけどフィリピンでも土着の呪術と結びつくことが確認されたのは、やはり近い形態の伝承がフィリピンまで分布していたことはこれで確定。

 しかも、あたしの想定よりも遥かに古く記録が残っている上に、欧州語の文献ではマレーシアのポンティアナやペナンガランよりも古い。これも、少なくとも今から300年前には東南アジア全般にこの妖怪が拡散していたということになります。

 映画のマナナンガルは、元の伝承の一部分を英米風に表現しただけのものだったわけです。

 しかも怖がられる理由は、やはりたたりを伴う存在だからって言うことも確定なわけです。もちろん、空を飛び、長い舌で女子供の血を吸う女吸血鬼としてのアスワン、マナナンガル像も現に存在するわけで、あたしゃそっちを追いかけるわけですけども(^^;

 というわけで、今後の調査はヒンディー系の民間伝承を調べるしかないってことになります。
まあ、あたしの語学力ではまるで手が出ないわけですけども(汗

 実は、あくまで仮定ですが、いざなぎ流の祝詞の源流も印度にあるわけで、実は陰陽道よりもルーツはヒンドゥーをベースにした南方呪術につながるのではないかって想像もしています。そうすると、犬神と狸の憑き物王国であり、海洋王国でもある四国にいざなぎ流が残る理由とつながる可能性もあるなんて書くと、ちょっと面白いと思いません?

 てな事を考えている今日この頃。

 でももう、自分の調べ物をする気力がすっかり失せていたり。

追記:『リアリティと他者性の人類学―現代フィリピン地方都市における呪術のフィールドから』には、アスワンのこと以外にも、呪術とリアリティの関係性に関連して、フィリピンのカソリック信仰や呪医(Medico)に関する興味ふかい取材と考察も記述されております。

 民俗学とはちょっと思考方法は異なりますが、読んで損はありません。妖怪関係者諸氏は、要チェクかと。


 てなところで、今年のblogもおそらくこれで店仕舞です。極、稀にしか更新されないこの日記を読んでくださってる皆様、よいお年をお迎えくださいませ。

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